多重下請け構造の各社はどういう思惑でプロジェクトに臨んでいる?

ITプロジェクトは必然的に多重下請け構造になりがちなのは別の記事で述べたとおりです。

プロジェクト管理をする上で、この多重下請け構造の中にいる
それぞれの人たちの立場や思いを汲み取れるようになると
プロジェクトの成功に大きく近づきます。

少し悲観的な部分もありますが、踏まえていて損はない話だと思いますので、
ぜひ参考にしてください。

まず、前提として
プロジェクトのオーナーである発注側の人間の目的は
プロジェクトの成功です。
導入したいと思っているシステムを

・限りなく希望通りの形で
・予算内に
・遅滞なく
・リリースする

これが唯一無二の目標です。

ただ、ここで忘れてはならないのが
プロジェクトに参加しているメンバー全員がこう思っているかというと

全然そんなこと思ってない

という所です。

では、各企業がどう思って参加しているかをまとめてみます。

【1次請け企業
プロジェクト開始時期は、発注側と同じ方向を向いています。
ただし、
・プロジェクトの雲行きが少しでも怪しくなる
・発注側とのコミュニケーションが悪くなる
こうなると
「どうやったら瑕疵にならないでプロジェクトを終えられるか?」
こういうことを考え始めます。

ちなみにどんなプロジェクトも一度も波風立たずに終わるなんてことはないので
放っておけば99%の確率でこの考えに至るといってもよいです。

そうなると何が起こるかというと
できるだけ自責にならないように振る舞い始めるので、
各タスクの判断や結論は発注側に出させるように仕向ける
しかも、できるだけ発注側の言質が残るような形にする。
とか
意図的に自責部分を隠した報告書を仕立て始める
などといった妙なリスクヘッジをし始めます。

本来、プロジェクトにおけるリスクヘッジとは、
プロジェクトを成功させるための物ですが
こうなってくるとただの保身ですね。

一次請けというのは、
そのプロジェクトの成否の責任を負う立場にいるからこその一次請けなのですが
それ故に、最悪の事態を想定して、
保身の為のリスクヘッジを取り始めることが往々にしてあります。
勿論、プロジェクトが失敗すると自身の評判にもつながるので、
できれば成功したいとは思っていますが

「瑕疵になる」というリスクと比較したら、些末な問題だと考えています。

プロジェクトが成功しようが失敗しようが、
最悪訴えられさえしなければ儲けにはなるからです。
発注側の人間はプロジェクトの成否は彼らの売り上げには直結しない
ということを強く意識したほうが良いです。

ですので、発注側は彼らが保身に走らないように、常に気を配らなくてはいけません。
鞭ばかり与えているとすぐに保身に走り始めるので、
適度に飴を与えながら、なだめすかして最後までベストパフォーマンスを発揮させて、ゴールさせなくてはいけません。

その為のやりようは様々です。
具体的にどうするか?を書き始めると長文になってしまうので避けますが、
例えば
・彼らの思考を先読みして、先手を打ち、保身に走りづらくさせる。
というやり方を取る人もいますし、
・強烈なカリスマで、一次請けメンバーの尊敬を集めて、離れさせないようにする
というやり方を取る人もいます。

そのやり様はまちまちですが、優秀なプロジェクトリーダーは
この問題に対して、何かしらのコントロール手法を持っているものです。

【2次請け企業
基本的にプロジェクトの成否はどうでもいいです。
彼らが見ているのは、あくまで彼らにとっての発注者である1次請け企業です。

ですので、プロジェクトにとって最善の策でなくても、
1次請け企業が喜ぶのであれば、そっちの策を優先します。

例えば、とても優秀なSEが2次請け企業にいたとします。
彼はプロジェクトの中で、いち早く問題に気が付きますが
それをプロジェクトオーナーに提案してしまうと、
1次請け企業の負担が増えてしまうことがわかっています。
その場合、彼はプロジェクトオーナーに問題解決の提案をするか?というと、
決してしないでしょう。
何故なら、そんなことしたら1次請け企業に悪印象を持たれてしまって、
次のプロジェクトに呼ばれなくなってしまうかもしれないからです。

2次請けの会社の中には、妙に優秀なSEを抱えている会社が稀にあったりするのですが、
彼らが2次請けとしてプロジェクトに参加しているのは、一次請けとしてプロジェクトを請け負えるほどの体力が会社自体にないからです。
そんな彼らからすれば、一次請けに背を向けて、プロジェクトオーナーと密になって、直接の関係を結ぶことよりも
1次請け企業から今後も定期的にもらえるであろう仕事のほうがよっぽど重要です。
もし、そんな背景がありながらも、プロジェクトオーナーに提言するようなSEがいたとしたら、その人はよっぽど空気が読めない人か、図抜けて優秀な人かどちらかだと思います。

ただ、ここまで書くと2次請けの会社は1次請けの言いなりのようにも見えますが
実態としてプロジェクトのエンジンになっているのは
この2次請けの会社になっているという事も少なくありません。
1次請けの会社はプロジェクト管理や発注側の相手をするのに精いっぱいで
実務は全部2次請けに丸投げ、なんてことも往々にしてあります。
そういった場合、発注側は
今回のプロジェクトのエンジンは2次請けのこの会社だ
と見抜いたのなら、大事にすべきは1次請け会社ではなくこの2次請けの会社です。

もし、エンジンが2次請けの会社になっていた場合、それに気づかずに1次請けの方ばかり見て、2次請け会社の仕事を評価できていなかったりすると、その2次請けにそっぽを向かれ、品質の低下を招いたりします。
このようなリスクも有るため、発注側は1次請けだけ見るのではなく、
2次請け会社のメンバーにまで目を向け、彼らがどういう思いで働いているかを
気にかけておかなくてはいけません。

【3次請け企業
スタンスは2次請け企業と同じです。
ただ、微妙に違うのは2次請けほど、1次請けの方ばかり見てるわけではありません。

3次請けともなると、付き合いのある会社も多かったりするので、
1社に対する思い入れはそこまで強くなく、2次請けと違って、
「あれ、このプロジェクト変だな。1次請けはなにやってんだ?」
と気が付いた時、プロジェクトオーナーに聞かれたらあっさり喋ったりします。
「あれは1次請けが保身に走ってますね。こうやった方がいいと思いますよ。
多分最終的にオーナーに責任が行くように立ち回ってるんだと思います。」
といったようにですね。
ただ、3次請けともなると、プロジェクトを横断的に見て怪しさを気取るといった意味で優秀な人はあまりいないというのが現実的な所です。

何故なら、SEで優秀な人間は上昇志向が強い為
自分の実力に自信があれば、より評価されたい!より裁量のある仕事をしたい!という思いが膨らんでくるので、3次請けという立場にとどまり続けるような人はあまりいないからです。

ただし、プロジェクトに限った話ではありませんが、
プロジェクトの破綻は末端に現れます。
彼らはいろいろなプロジェクトに、様々な立場で参加しているため、
きな臭いプロジェクトに対して、もっとも敏感に反応する人たちでもあります。
彼らの動向がプロジェクトの健康状態を示しているとも言えますので

何故か3次請けの会社の人たちばかり、深夜まで働いている

というようなことがあれば、それは1次請けや2次請けの会社が報告にあげていないトラブルが起こっているのかもしれません。
1次請け、2次請けの会社に嘘をつかせない。
プロジェクトの透明性を担保するという意味で、1つの指標となる存在ですので、彼らの動きを一つのバロメーターとしてみるというのも、健全なプロジェクト管理において重要な要素です。

といったように、プロジェクトに関わる企業はそれぞれに思惑があって動いています。
ここまで書いたのはあくまで一例ですが、こんな風に向いてる方向がバラバラな人たちをまとめ上げていかないといけないのが社内SEでありプロジェクトリーダーになります。
私が他の記事でも書いているように、優秀な社内SEになろうと思ったら、
いろんな立場での経験が必要と言っている根拠でもあります。
実際に自分が1次請けや2次請けの立場に身を置いてみると、それぞれの立場でどういう風に動くのかというのが身に染みてわかります。
その経験が社内SEとして、プロジェクトをまとめ上げる立場になった時に非常に使える知識になります。

様々な利害関係をはらんだプロジェクトをまとめ上げるために
プロジェクトリーダーは様々な能力が求められるので
自身がプロジェクト管理をやっていこうと思うのであれば
こういった面々の思惑や思いをくみ取って、導いてやらなければいけないと意識しないといけないですし、採用する側も、こういったことができる人を選ばなくてはいけません。

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